博士学生の生活費支援 留学生を排除へ―何が問題か
文科省は2025年6月、博士後期課程の学生への支援金290万円のうち、生活費に相当する240万円について、日本人学生に限定するという方針を明らかにした。その理由として、「私費での留学が多いこと」などが挙げられている。しかし、より根本的な背景には、コロナ後の外国人増加による国民の不満や情緒の高まりがあった。
では、「SPRING(次世代研究者挑戦的研究プログラム)」の生活費支援からの留学生排除に、どのような懸念点があるのか。外国人労働を研究している元留学生から見れば、大きく以下の3点が挙げられる。
(1)国際的イメージの低下
支援金対象から外国人を除外することは、国際的にも注目される事態となっている。留学先として日本の大学を検討する外国の若者に対し、日本が「排外的」であるというイメージを与えかねない。
(2)移民が単純労働者に偏在するという「negative selection」の加速
日本の移民構成は、もともと単純労働者に偏在する構造となっている。高スキル移民の大部分は元留学生である。国からの生活費支援を得られなくなることで、優秀な外国人材は日本以外の国を選ばざるを得なくなるケースが増えるであろう。
(3)高等教育機関の研究開発能力の低下
博士課程の留学生は、高等教育機関(とくに理系研究室)における研究開発の重要な担い手である。優秀な外国人材の供給が細ることで、日本の科学技術力は停滞する恐れがある。
一方、日本人の大学院生は、この方針変更により支援金を得やすくなることから、経済状況が改善されたり、博士課程へ進む者が増える可能性は確かにある。
問題は、日本の企業が博士号取得者の採用を避ける傾向があり、アカデミック職の投資収益率が必ずしも高くないことだ。やりたいことを見つからない、就職活動を回避したいといった消極的な理由で博士課程に進学する日本人が増えた場合、本人にとっても社会にとっても資源の無駄遣いを助長することになりかねない。
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