行き過ぎた再分配で色褪せる日本社会の魅力

「10年後、20年後、30年後の日本を考えて政治をやっている政治家が果たして何人いるのか。自分の中で日本はもう20年前のキラキラした、ワクワクしたイメージはなく、悲観しかありません。」ー元留学生 朱さんよりー
                            

以下は朱さんの投書全文

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私は2002年に留学生として日本にきた中国出身の日本人(国籍上)です。日本に来る時は日本で何がしたいとかはっきりした目的があった訳でもなく、ただ父に「井の中の蛙になるな、海外の大学で学びながらもっと広い世界を見てきなさい」と言われるがままに親に高額な留学費用を出してもらい、とりあえず日本語学校に在籍することになりました。父は中国の地方都市の高級官僚で共産党員でした。海外視察等で日本に来たこともあり、いろいろ思うことがあって私を留学させたのだと思います。


日本に来て初めて降り立った横浜駅の西口。たくさんの人でごった返る駅前、おしゃれな若者がたくさんいる、キラキラする看板が林立している。初めての日本は何だかワクワクする、楽しそう、キラキラするといったイメージでした。あの時自分が見た横浜駅西口の景色と「ビーッグビッグビッグビッグカメラ」の歌がセットになって今も当時のワクワクした記憶が鮮明によみ返ります。


そして、日本の大学で何を学ぶべきか悩んでいた時に「国民皆保険」に出会い、強い衝撃を受けました。この社会主義よりも社会主義な制度は一体何なんだと。(介護保険もそうですが)国民皆保険との出会いは「資本主義は必ず滅びる」といったそれまでの洗脳教育から目を覚まし、後に自分の進路と人生に大きな影響を与えた、日本という国と社会の在り方について深く考えさせられるきっかけとなった制度です。なぜ資本主義国家の日本で国民皆保険が成立したのか、この制度を自分の国に輸入できないかという思いから東京都立大学で社会福祉学を専攻し、大学院で皆保険の成立過程をめぐる文献研究を行いました。(指導教授は岡部卓先生で、今は明治大学におられます)


卒業後は専攻と離れた職に就き社会保障制度について考える機会が減りましたが、社会人として母として子育を通して、共働き家庭や単身赴任によるワンオペ育児をする家庭等多様化する子育て世帯のニーズに柔軟に対応できない現在の子育て支援についてなぜこうなのか、どうあるべきか、社会保障制度についてまたいろいろ考えるようになりました。


私が日本に来てからのこの20年間、日本は国民の平均所得がまったく上がっていないだけでなく子どもが増えないという異常事態が続いています。国、社会を支える基本は人であり、社会の閉塞感を打開し、国が成長するためには労働、消費人口を増やし、教育の機会を充実させ、市民が安心した暮しを送れる状態が必要だと思います。


しかし現状は、少子化が進み経済成長が停滞しており、本来であれば国、自治体は一番に人口を増やす政策を進め、子育て支援を通して少子化解消への努力をすべきが、支援どころか、保育従事者待遇改善の遅れや年少扶養控除の廃止、特定扶養控除の減額、高額所得層への特例給付の廃止といった、子育て世帯の負担増と市民の分断を生むような政策ばかりです。


30年後には現役1.3人で高齢者一人を支えるという試算になっていますが、公的年金等賦課方式の制度を維持するための有効策もないまま政府からは増税の議論やら社会保障の維持と安い労働力確保のための安易な移民政策やらとため息が出るほどの愚策しか出てきません。ビジョンも何も見えないまま未だに目先の票集めのばら撒き政策を続けている自民党を見ていると絶望しかありません。


10年後、20年後、30年後の日本を考えて政治をやっている政治家が果たして何人いるのか。自分の中で日本はもう20年前のキラキラした、ワクワクしたイメージはなく、悲観しかありません。強い思い入れのある国民皆保険の制度も支える人がいなくなることで維持できなくなるのではと思います。


娘には物心両面で豊かな社会を生きてほしいと願っており、行動を起こそうと思っています。政府には偏った社会保障の給付と穴だらけの税制を早急に見直していただきたい。おかしいと思う所はたくさんありますが、とりわけ以下については是非取り上げて頂ければと存じます。

1.扶養控除について

私の父は中国に住んでおり、日本に納税しているわけでも当然ながら日本で消費しているわけでもないので日本に何ら貢献もしておりません。しかし、海外に住んでいる父は扶養控除の対象になっています。反対に、日本に住んでいて消費税にも貢献している娘は扶養控除対象外です。更に扶養控除の代わりだった児童手当の特例給付も経団連の提言で一部の家庭は今年の10月からもらえなくなります。

このようなめちゃくちゃな税制、先生はおかしいと思いませんか。


2.高校無償化について

実質高校無償化と言っていますが、実は左から取って右につけただけの見せかけの給付です。高校無償化と同時に特定扶養控除が63万から38万に減額され、高校から大学までの7年×25万×子供の人数が課税対象となり、高校無償化前よりも所得税と住民税を多めに払うことになっています。


しかも所得制限付きなので、無償化対象外の家庭にとっては子どもの人数だけ増税されただけになりました。授業料を今まで通り払った上での増税なので多子世帯は死活問題ではないかと思います。しかし、税金や控除のことは分かりにくいため、このからくりに気付いている人はとても少ないと思います。大阪市の場合対象世帯は約半数にも関わらず全員無償化のような言い方をしています。


3.大学の奨学金について

大学の給付型奨学金が少し前に話題になりましたが、これもまた所得制限とセットになっています。返済型にももちろん所得制限があり、所得制限家庭は児童手当、高校無償化、奨学金等すべての給付から外されます。これに比べて留学生は授業料ただ、生活費月14万、渡航費まで日本政府から支給されます。過去に自分が住んだことがあるアメリカのペンシルベニア州の場合、州内の納税者の家庭の子どもは授業料が50~60万円相当、州外はその倍、留学生は3~4倍でした。


日本は自国民に対しては冷たいのになぜ外国人にはとても優しい。


私自身もかつて文部科学省の給付型奨学金をもらいましたが、日本人の学生には返済義務があることを結婚して初めて知りました。因みに主人は院卒だったこともあり、未だに奨学金を完済できていません。少子化が止められないなら少ない人口でも支え合えるよう、国の予算で大学まで行けるよう支援する等質の高い高等教育を受けさせ、国民全体の所得を上げる努力をすべきではないかと思いますが、なぜか政府は真逆のことばかりしています。


そして、子育て支援については納税者への優遇制度があるアメリカと比べて中間所得層が冷遇され叩かれる日本。貧困扶助だけが正義でお金がある人から毟り取ろうという社会の風潮にも違和感しかありません。社会保障の給付を支える人を増やさないと社会的弱者が真っ先に影響を受けることへの想像力の欠如だと思います。


貧困対策はもちろん手厚く行うべきだと思いますが、それを子育て支援と混同してはいけないと思います。累進課税で一回富の再分配が行われたにも関わらず、子育て支援で更に再分配が行われています。

例:小児医療補助、児童手当、保育園負担料(横浜市の場合0円~77,500円ととんでもない格差)、高校無償化、大学の奨学金


度を過ぎた応能負担で所謂高額所得者でも子育て世帯の負担はかなり重くなっており、第2子、第3子を望めない状況です。子育て支援におけるゼロサムゲームのような富の再分配は誰も豊かになれず、共倒れする危険性すらあるのではないでしょうか。


先生はどう思われますか。所得制限ボーダーライン付近の家庭は何の支援もないまま自助を強制されてマイルド貧困状態のご家庭も多いです。所得制限は経済的負担による生み控えだけでなく、子どもが質の高い教育を受ける機会までを奪ってしまいます。今必要なのは「その家庭の子ども」という考え方ではなく、「社会の子ども」という分かち合いではないかと思います。


子供の権利は平等であるという子供の権利条約に則って、すべての子ども達への支援を一律をすべきと思っております。偏った社会保障の給付を見直し、未来の納税者になる子どもたちを社会で大事に育てようということを言いたいですが、

一市民がブログにこんなことを書いたところで何も変わらないと思いますので、

是非〇〇様のお力で社会に一石を投じていただけませんでしょうか。

厚かましいお願いで大変恐縮ですが、何卒ご検討のほどよろしくお願いいたします。


ミヤギ 旧姓:朱

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ZHOU Yanfei

Professor Japan Women's University

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